今年2026年はアメリカ中間選挙の年。連邦議会は、上院が100議席中35、下院はすべての議席が改選されます。
2026年6月現在は、上院は100議席中、共和53、民主(無所属含む)47で、下院は435議席中、共和218、民主212、無所属1、空き4 という構成。いずれも与党共和党が多数派で、トランプ大統領としてはやりたい放題しやすい環境です。(そうでなくても、やりたい放題やるかもしれませんが)
ただ、両院ともにあと数議席ひっくり返ったら形勢逆転という僅差であるのも事実。そういった意味で、今年の中間選挙はかなり注目度が高いと言えそうです。
そんな中、今回の選挙戦でひときわ注目を集めているのが、北東部メーン州の連邦上院議員候補として民主党から出馬したグラハム・プラットナー氏です。
メーン州で生まれ育ち、現在も地元で牡蠣の養殖業を営む41歳。高校卒業後、米海兵隊に入隊し、イラクで3度、アフガニスタンで1度従軍し、当時の戦闘体験からPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされた時期があったことも告白しています。
聴衆を沸かせる力強く自信に満ちた物言いが、人気を集めているようです。
バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレンといった主に左派系政治家らが彼の支持を表明しています。


バイデン氏の大統領選撤退以来、民主党は若さとガッツと草の根的イメージを兼ね備えた人物を擁立しようと必死です。
そんな折、ワシントンのエリート層をぶっ壊す”労働者階級のホープ”として白羽の矢を立ったのがプラットナー・・・だったのですが、選挙戦が進むにつれ、過去の良からぬ言動が次々に明るみに出てきました。
グラハム・プラットナーの悪い噂
- 掲示板サイト「Reddit」で「その気のない相手にヤられたくなかったら、自分で責任を持て」など問題発言をたびたび投稿
- 妻がいる身にもかかわらず、別の女性に猥褻な内容のテキストメッセージを送る
- 胸に、ナチスのシンボルとされる「Totenkopf」(髑髏と骨のマーク)のタトゥーあり
- 元ガールフレンドから、プラットナーと交際中の出来事として「後ろ手にされ身動きが取れない状態で、部屋に閉じ込められた」などとニューヨーク・タイムズに告発される
プラットナー本人は、Redditの投稿については「PTSDに苦しみ判断力がなくなっていた時期だった」、タトゥーについては「ナチスのシンボルとは知らなかった」、猥褻テキストについては謝罪しつつ妻とともに「すでに済んだこと」とそれぞれ弁明。元ガールフレンドの告発については、事実無根と否定しています。
プラットナーの言い分の真偽はともかく、そもそも彼の適性を疑問視する声も出ています。その理由は・・・
- 実は父親は裕福な弁護士で、学費年間7万ドル以上のプレップスクール出身
- 自宅購入の頭金は父親が肩代わり
- 牡蠣養殖業の取引先は母親の経営する高級レストランだけ
- 祖父は著名な建築デザイナーで、彼のデザインした椅子は1つ1万5000ドルもする
蓋を開けてみたら案外お坊ちゃまじゃん…ということで、「労働者層の代弁者」を謳うには無理があるのでは、41歳で親の金に頼る上院議員候補はいかがなものか、など批判的な論調のメディアも保守・リベラル両方から出ています。
といいつつ、6月9日に行われた予備選挙では民主党の指名を勝ち取る結果に。対立候補が撤退済みという特殊な事情はあったものの、一定の支持は得たということのようです。
ただ、このまま勢いに乗って11月の本選へ・・・となるには、少々壁が高すぎるような気がします。
好き好んでイロモノを選ぶには、相応の理由がなければならない
11月の本選でプラットナーが対峙するのは、1997年の初当選以来、現職で当選し続けている共和党の大ベテラン、スーザン・コリンズ上院議員。

共和党は共和党でもトランプ路線とは一線を画した中道寄りで、トランプ氏に表立って異を唱えることも多い人物です。
メーン州といえば、過去3度の大統領選挙でもカマラ・ハリス(’24年)、ジョー・バイデン(’20年)、ヒラリー・クリントン(’16年)にそれぞれ軍配があがった、本来なら安定した民主党地盤。その州で、コリンズ議員は5回も選出され続けているわけです。
議席を獲得できるとは言え、ガチガチのトランプ万歳MAGA派ならともかく、民主党としても、中道安定のコリンズ氏を蹴落としてまで、素行も怪しげで親のすねかじり疑惑も浮上したリスキーな新人を持ち上げる理由はないのではないでしょうか。
過去、プラットナーと同じように、選挙戦で全米に名を知られ注目が集まったあたりで予期せぬスキャンダルに巻き込まれた例に、ロイ・ムーアという人がいます。

2017年に行われたアラバマ州選出の連邦上院議員選挙で、共和党の指名候補となったのが、州の最高裁長官だったムーア氏でした。ところが、選挙戦のど真ん中で、複数の女性が相次いで「未成年の頃、30代だった彼にレイプされた」と名乗り出たのです。
ムーアはこの告発内容を「自分を陥れる策略」と真っ向否定。30年以上昔の話なので確たる証拠は出てこないものの、当時MeToo運動のピークだったこともあり疑惑は収まらず。「性犯罪の疑惑のある人物が上院の椅子に座ることに!?」という論調で報道は大過熱します。
結果、本選では民主党の対立候補だった元連邦検事のダグ・ジョーンズ氏に敗北し、ひとまずアラバマ州は、性犯罪疑惑がくすぶる人物を州民の代表として議会に送ることもなくなり、事なきを得ました。
アラバマ州といえばコテコテのレッドステート(共和党地盤)で、疑惑浮上前はむしろ大方がムーア優勢の見方でした。そしてレイプはあくまで疑惑で証拠はありません。それでも、失脚させられるには十分なスキャンダルだったわけです。
レイプ疑惑とプラットナ―の不品行疑惑を単純に比較するのは無理がある上、少々不謹慎かもしれません。
ただ、どちらも「対立候補に致命的なマイナスがない」点で共通しています。
ムーアの場合、共和党有権者から「議席はほしい。でもこの人を選ぶリスクを取るほど、民主の候補もひどくないから、仕方ないか」と判断されたのでしょう。
プラットナ―の場合、11月の本選まで時間があるのでその間どう戦うか次第ではありますが、現状の延長線では「この人を選ぶリスクを取って議席を取るくらいなら、コリンズでいい」というオチになるというのが、私の予想です。
2025年、ニューヨーク市長選のアンドリュー・クオモ:
2020年、ニューヨーク州知事としてコロナ対策を主導し絶大な人気を得るが、翌年セクハラで知事辞任に追い込まれた上、コロナ禍での高齢者施設対策をめぐって刑事捜査対象になる。再起を狙って市長選に出馬したが、民主党のマムダニに敗れた。

2013年、ニューヨーク市長選のアンソニー・ウィーナー:
連邦下院議員時代、民主党の若手ホープと持ち上げられるが、2011年に自分の下半身などの猥褻画像を複数の女性に送りつけたスキャンダルで辞任。再起を狙って市長選に出馬するが、前回のスキャンダル後も猥褻画像を送っていたことが判明。結果、市長選では5位に終わる(当選はビル・デブラシオ)。2025年にも市議会選に出たが落選している。
プラットナ―の場合もこのパターンにおさまる気がするのですが、ひとつ、この呪縛からうまく逃れた例をご紹介したいと思います。
トランプが鍵?スキャンダルの呪縛をはねのける荒業
今の政界に、グラハム・プラットナーと酷似した人物がいます。

トランプ政権で大活躍中の、ピート・ヘグセス国防(戦争?)長官です。
現在46歳と、プラットナーと世代も近く、イラクやアフガンで従軍経験もあるという点でも共通しています。しかし何より特筆すべき共通点は、スキャンダルまみれであることです。
今のところはトランプ氏の信頼も厚いようで安定した地位にいますが、トランプ氏が国防長官に指名した直後には、バニティ・フェアやニューヨーカー各誌のスキャンダル報道で、承認も危ぶまれる始末でした。
スキャンダルの内容は、こんな感じです。
- 2017年、カリフォルニアのイベントで出会った女性をレイプした疑惑。警察に捜査記録もあり。最終的にヘグセスが和解金を払って終了。(ヘグセスは行為は合意の上で「起訴されていないのが何よりの証拠」と主張)
- 最初の結婚はヘグセスの浮気で崩壊。他所で子供も作っている。二度目の結婚もヘグセスの浮気で崩壊。こちらも他所で子供を作っている。その浮気相手が現在の妻。
- ヘグセスの実母が「あなたは女性を虐待している」と実の息子をメールで叱責。「belittles, lies, cheats, sleeps around and uses women(女性を蔑み、嘘をつき、ごまかし、浮気し、利用する)」とコテンパンにディスる(後に母親は「衝動的に送ってしまった。後悔している」と発言を撤回)
- 退役軍人による小規模な政治系NPO法人2団体でトップを務めたが、いずれも資金繰りに失敗した上、飲酒問題、問題発言、素行不良などで解任されている。
- 酒癖の悪さに定評あり。ヘグセスがキャスターを務めていたFOXニュースの元同僚らが「しょっちゅう二日酔い状態で朝の番組に出ていた」と証言。
基本的に典型的なオレオレ系パーティーガイで、これらに付随した酒癖や女性問題を掘り始めたらキリがないようです。
彼と比較するとプラットナーなんて可愛いものですが、そのスキャンダルまみれのヘグセスが、軍の兵士を含めて340万人が所属する、政府機関でも桁違いにデカい組織のトップを務めているというのが、2026年6月現在の事実です。
ただ、ヘグセスの場合は政府機関のトップであり、大統領の一存でどうにでもなるポジションです。いかに国民から批判が殺到しようと、基本的に大統領の後押しさえあれば安泰です。しかもその大統領、スキャンダルにかけてはヘグセスなんて到底足元にも及ばない百戦錬磨です。ヘグセスには「とにかく戦え」とアドバイスしているとか…。
それと比べて、プラットナーの場合は上院議員選という枠で戦っているので、有権者の評価がダイレクトに進退に影響します。しかも上院は州から2人だけという下院よりもずっと狭き門だけに、よほどの理由がない限り一度ケチのついた候補に多くの有権者が賭ける方向にはいきにくいのではないでしょうか。
それよりも、今回民主党のライジングスターとしてプラットナーが登場したことは、別の意味で興味深いところがあります。
リベラルの救世主か、使い捨ての駒か
先日、バイデン氏の息子のハンター・バイデンが、次期大統領選出馬が有力視されるカリフォルニア州、ギャビン・ニューサム知事のポッドキャストに出演し、スキャンダルの的になっているプラットナーを擁護しました。
「ほとんどの人が明かされたくない過去を持っている。過去を掘られても何も出てこない超クリーンな人間なんてほんのわずかだ」というのがハンターの言い分。
彼自身、ラップトップ問題などでメディアにボロボロに叩かれ続けたからこその箴言です。
狭き門の連邦上院議員候補ともなれば、「ほんのわずかの人」しか持たないレベルのクリーンさを求められるのも無理はない気もしますが、ともかく一般人であれば自分の周辺以外に知れ渡ることなど到底ない過去が、全米に知れてしまったのは確かです。
当選すればこそそんな過去も勲章ですが、当選しなかった場合(私はそう予想していますが)、プラットナーはどうなるのでしょうか。
いい線まで行ったとは言え、当選しなければ、当然政治家になることもありません。
ただ、選挙戦で掘り起こされた過去が世間の記憶には残ります。
”ライジング・スター”として上がってきた若手候補者は、一度失敗しても次回再チャレンジする余白は十分にありますが、プラットナーの場合、そういうタイプと少々毛色が違います。
そもそもプラットナーが出馬したのは、トランプ政権や既成勢力に果敢に立ち向かう”ファイター”のイメージを持つ候補者を探していた民主党系政治団体によるスカウトがきっかけで、その経緯は複数のメディアが報じています。
現在のモチベーションレベルはともかく、プラットナー自身最初から「政治家になりたい」という強い願望があったわけではないようです。
では仮に、民間人に戻って、今回の出馬を「いい思い出」として割り切る場合。そう簡単には行きそうにありません。世間に顔が知られただけに、「ナチスタトゥーの人」「元カノを後ろ手にした人」というイメージがどうしてもつきまとうことになります。ネットには、記事や自分の選挙キャンペーン素材だけでなく、世間のSNS上の書き込みも残り続けます。デジタルタトゥーというやつです。
そんなの気にしない、というほど鋼のメンタルを持っていればいいですが、Redditでの発言や過去のSNS動画でも衝動的な言動が目立ちますし、PTSDに苦しんだことをすでに明かしているので、この点は思いっきり他人事ながら、追い詰められないか心配です。
政治家から転落して民間人に戻った人はメディア出演で逞しくサバイブする人も多いですが、プラットナーの場合はそこまでの立ち位置を確立しているわけではないので、これも微妙です。
スカウトした政治団体が責任を持って「新たな民主党のホープ」として次の選挙でもバックアップを続けるのか、「使い捨ての駒」として切り捨てるのか。ここが鍵を握りそうです。
個人的には、プラットナーには一度こうなった以上、この選挙戦が終わっても政治系NPOなどに所属しつつ、地方政治でも国政でも政界進出を目指し続けてほしいなと思います。
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と好き勝手書きましたが、もし11月の本選で当選して本当に上院議員になったら、プラットナーさんごめんなさい。
